「国債は資産」は中学生で卒業するべき概念

「赤字国債」の名の通り、国債はしばしば国の借金としてネガティブな意味で使われますが、最近「国債は資産だ(正確には「国債は国民の資産だ)」と主張し「だからいくら発行しても問題ない」と主張する一派がいます。

ですがこれは「ある意味本当」ですが本質的には「ウソ」です。その理由を説明します。そんなに難しい話ではなく、中学生でもサクっと理解してしまえる程度です(つまりその程度も理解できないのは…)

経済は二面性がある

経済には必ず二面性があります(マクロだと三面ありますがここでは考えません)。

難しい話ではなく、例えば私が釣具屋で2万円の釣り具を買ったとしましょう。そうすると、私は2万円の支出がありましたが、店は2万円の売り上げが出たことになります。この「支出ー売り上げ」と見る方向によって見方が異なるのが「二面性」です

これはあらゆる側面からいろいろな二面性をみることができます。例えば「私」個人でみると、私は2万円という資産を支出し、釣り具という資産を取得したともとらえられます。「支出」と「資産の取得」二面性です。店は逆に、2万円の釣り具という資産を手放して、2万円の売り上げを得たとも言えます。

こうした調子で、経済にはどんな場合も二面性があり、 ます。正確には二面的に表すことができます。それは一方でプラス、一方ではマイナスになることがほとんどです。

借金(貸し借り)にも二面性がある

これは金融…つまりお金の貸し借りでも同じことで、お金を借りたなら、それは誰かが貸したということに他なりません。これが「貸し手-借り手」の二面性です。

ところで、貸したお金というのは、「資産」になります。誰かへの貸付をしても、今使う現金がなくなっただけで、返済されればまた2万円は復活するのですから、権利上、2万円分の価値がその人から消えたわけではありません。

ですから誰かへの「貸付金」は資産ととらえます。一方で借金は負債です。

国の借金は国が国債という負債を発行し、これを誰かが購入という形で貸付を行うことで成立します。もうお分かりかと思いますが、国債は国の側面から見たら「借り入れ」であり「負債」ですが、貸す側、つまり国民の側面から見たら「貸し付け」であり「資産」になります

「国債は国民の資産である」というのは、単にこうした経済の2面性という基本的な性質を言葉にしたに過ぎないのです。

簿記初期レベルではしゃぐな

こうした二面性を端的に表したのが「複式簿記」という会計制度です。複式簿記の考え方は普段あまり意識しないだけで、内容の理解だけならそんなに難しくありません。商学系の高校生ならだれでも知っているし、中学生でも理解できる理屈です。

こうした経済学というか会計制度の初期レベルを知っただけで鬼の首を取ったかのように「国債は借金ではない!」「国債は国民の資産だ!」などとドヤ顔をするのは本当にやめていただきたい。痛いです。

これは今まで経済を一面的(売った!お金が手に入った!終わり!、買った!お金が無くなった!終わり!)にしか見てこなかった人間が初めて二面的に見たときの感動をあらわしているだけだからです。そういう感動は学びには不可欠ですが、その浅すぎる知識を日銀の幹部などにぶつけてドヤ顔するのは中学生で卒業してください。

「資産(国債)」は返済不能になることはある

当然ですが、これは「そういう見方ができる」「そういう風に呼んでいる」というだけで、本質的に借金がなくなるわけではありません。持っている資産となる貸し付けが返済されず不良債権になることは往々にしてあります。

例えば90年代の日本。バブル崩壊は不良債権がもたらしました。銀行が保有している貸し付け、つまり資産が返済されなかったのです。2008年のリーマンショックも、アメリカの銀行が保有しているサブプライムローンという資産(土地を担保にした貸し付け)が土地の値段が下がったことで回収不能になったものです。

例えば1000万円で貸し付けた場合、それは「資産」ですが、貸付先の土地が翌年700万円とかになれば、資産の価値は300万円減ります。実質300万円分返済不能になったのと同じです。売らなければ帳簿上の価格は1000万円のままですが、実際には700万円になっているわけです。だから「破産」ではなく「不良債権」(帳簿上は資産だけど実質的にはその価値を失っている不良の債権)と命名されているわけです。

「国債は資産である」は、単に会計制度上、そういう風に言うことにしたという形式的な人間の取り決めを表現したにすぎず、「それが返済の必要がなく未来永劫資産であり続けるよ」という本質的な価値の担保には何一つなっていないのです。

もちろん、家計の借金とは特性が大きく異なるため、家計の借金のように過度にネガティブに捉える必要がないことは確かですが、ですが「国の借金はどの程度までしてよいか」という話と「国債は借金ではなく資産である」という話は全く無関係であることはわかっていただいてほしいですね。