マクロ経済学で最初の方に習う「有効需要」について、わかりやすく解説します。
有効需要とは?需要との違い
有効需要とは、貨幣的裏付けのある需要のことです。
「貨幣的裏付けのある」というのは、実際にお金を支払う意思があるかどうかです。では、
ただの「需要」との違いは何でしょうか?
需要は例えば
- 「宇宙旅行に行きたい」
- 「ラーメンが食べたい」
といった漠然とした「欲しい感情」だけでも成立します。
一方で、
「実際にお金を持っていて、ラーメン屋に立ち入りラーメンを食べたい」
のであれば、ラーメンに対する「有効需要」が存在しているということになります。

このように、実際に支払いにつながる需要が
「貨幣的裏付けのある需要」=有効需要
となります。
ただ、「どこからどこまでが需要で、どこからが有効需要なのか」という厳密な線引きはありません。
大事なのは漠然とした「需要」と貨幣的裏付けを伴う「有効需要」は違うものだと認識できていることです。
なぜ有効需要なのか?
なぜ有効需要という考えが必要なのかというと、「需要」を扱う際の言葉の混乱を防止するためです。
たとえば、失業者にも需要はあります。職がなくても、欲求がなくなるわけではないからです。
ですが失業者には所得がないので貨幣的裏付けのある需要、つまり有効需要はありません。
この区分けができないと、「失業が多いと、需要が不足する」と言っても、
しかし、
失業が増えたって、「あれが欲しい」と思う気持ちは消えないから、『需要』がなくなるわけない
という批判が来る恐れがあります。
こういった「感情のみの需要と所得を伴う需要の違い」を整理するために、「有効需要」という言葉があることは大変有効なのです。
これにより、それまで漠然としていた「需要」との言葉の違いを分けられるようにしたわけです。
有効需要の生みの親の「ケインズ」
有効需要という言葉を作ったのは、イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズです。

実は、ケインズが1930年代に「有効需要の原理」を発表するまでは、経済学では供給側の分析が中心でした。
つまり、需要側の分析がほとんどなされていませんでした。
しかし、20世紀初頭を襲った「世界恐慌」という大不況が発生。
経済学は、それまでの供給側の分析では説明できない現象が次々起こったのです。
そのためにケインズが改めて「需要側の研究」をして生みだされたのが「有効需要」という概念であり、「有効需要の原理」という新しい考え方なのです。
有効需要の原理とは
有効需要の原理とは、「有効需要がその国の国民所得(GDP)を決定する」という考えのことです。
詳しくは次の項目で説明しますが、有効需要が100ならその国のGDPは100になるし、80なら80になるという原理です。
ケインズが有効需要の原理を主張するまでは、その国の経済水準は供給力が決定すると考えられていました。
したがって、供給力が100ならGDPは100、80なら80になると考えられていたのです。
▼従来の経済学と有効需要の原理の違い
| 従来(19世紀まで)の経済学 | 有効需要の原理 |
|---|---|
| 供給力がその国のGDPを決定する | 有効需要がその国のGDPを決定する |
ところが、世界恐慌で多くの失業者が生まれ、多くの工場が生産停止しました。
すると、供給力は十分にあるのに経済が成長しないという、それまでの経済学の考えでは説明できない事象が発生(※)しました。
例えば、極端に言えば、供給力は100あるのに、GDPは80といった状態です。
そこで、ケインズは、
有効需要が不足すれば生産設備が止まり、失業が発生する。それが経済水準を引き下げることになる。
つまり、有効需要の水準が国民所得を決定する。
という「有効需要の原理」を主張しました。
そのため、裁量的な金融政策や財政支出によって有効需要を創出しようとする「大きな政府」の考え方を提唱しました。
大きな政府の考え方はその後、アメリカのルーズベルト大統領により、大規模な財政支出を伴う「ニューディール政策」等で実現されています。
有効需要の原理の中身
有効需要の原理は、言葉で定義をするだけでなく、簡単な代数(YとかXなどの数学文字)を使って表すことができます。
マクロ経済学ではこの数式で表すものがよく使われるので、「式がどうやってできるのか」「式が何を意味するのか」を覚えておくとよいでしょう。
ちょっと専門性があがるため、余裕のある方や45度線分析からやってきた方のみご覧ください。
有効需要の総和「総需要」の中身
まず、有効需要の原理は「有効需要がその国の国民所得を決定する」ため、需要の内容について細かく定義されています。
ケインズによれば、一国内の有効需要の合計である「総需要(Yd)」は、国内の消費、投資、政府支出、貿易の額によって決まるとされています。
消費をC、投資をI、政府支出をG、貿易を輸出(Ex)輸入(Im)とすると、
総需要(Yd)=C+I+G+Ex-Im
という45度線分析で見慣れた式になります。(輸入は外国企業が国内企業から需要を奪い取るのでマイナスとなる)
式の導入については、45度線の記事にも詳しく書きましたのでご覧ください。


(応用)なぜ供給側の事情を考慮しないで良いのか
45度線分析では、総需要は上記の通りこれだけいろいろな数を必要とするのに、総供給は、
総供給(Ys)=Y
という超単純な式だけです。
総供給(Ys)は、普通、その国の生産に従事する人の数や機械の数、つまり労働人口や資本量(またそれに従って決定される企業数など)によって決まりそうなのにです。なぜでしょう。
それは、有効需要の原理が働いているため、こうした生産力を決定する要素は考慮しないでよいからです。
つまり、総需要が100なら総供給も100になり、自動的に均衡国民所得も100になります。
もし、以下の図のように、総需要が100から220に変化した場合、総供給は、休ませている工場を動かし、クビにした労働者を新たに雇用して、生産を総需要分だけ増やします。

今度は逆に、総需要が220から100に減った場合です。
この場合、企業は工場を停止し、労働者を解雇することで供給量を100になるよう調整しようとします。
企業はこうした、生産にかかわる機械や労働者の雇用量を調整することで増減する需要に合わせるために、複雑な方程式とはならないのです。
このように、有効需要の原理によって、「なぜ供給側の事情を考慮しないで良いのか」というと、供給側は供給量を自由に調整できるからという前提があるからなのです。
まとめ
- 有効需要とは、貨幣的裏付けのある需要のこと
- 有効需要の原理とは、その国の有効需要の総量によって国民所得が決定されること
- 有効需要の原理が働く世界では、供給量は自由に調節できる
現在では、有効需要の原理は短期でしか成立しないといったさまざまな批判があります。
しかし、暮らしているなかでは「需要の増減によって企業が供給量を調整する」というモデルはリアリティあふれていて納得しやすいのではないでしょうか?
有効需要の原理が幅広く受け入れられてきた理由はこういうところにも理由があったのです。
【脚注】
※わかりやすさを優先してこのような書き方をしましたが、実際には、十分な供給力を備えている国のGDPがそれ未満のGDPしか出せないことについて、経済学者が無策だったわけではありません。動学的な投資の概念(将来の消費に備えるための合理的行動であるとか)を導入したり、市場の一時的な機能不全(具体的には、労働者が低い賃金では労働を放棄するために起きている(古典派の第二公準))だとする説などが提唱されていました。ケインズはこれらの説は非現実的で実体経済を正しく説明していないと厳しく批判しました。
【参考文献】
- ジョン・メイナード・ケインズ著(間宮 陽介訳)『雇用,利子および貨幣の一般理論 上』岩波書店、2008
- ニコラス ワプショット 著(久保 恵美子 訳) 『ケインズかハイエクか 資本主義を動かした世紀の対決』新潮社、2012」


