地域包括ケアシステムは、日本の介護を支えるための国の制度の一つです。
この記事では、地域包括ケアシステムについてわかりやすく解説します。
地域包括ケアシステムとは
地域包括ケアシステムは、国が進めている高齢者が介護が必要になっても自宅で変わらず暮らせるようにするためのシステムのことです。
国は厳密には次のような言葉で地域包括ケアシステムを定義しています。
重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるシステム。
厚生労働省WEBサイト「地域包括ケアシステム」
介護保険法などとの違い
地域包括ケアシステムは、国が掲げているシステムの全体図であり、何かの法律ではありません。実は「地域包括ケアシステム法」は存在しません。
そのため、このシステムを運用するために、介護保険法を始め、下記のようなさまざまな法律を組み合わせて、運用しています。
- 介護保険法
- 社会福祉法
- 障害者総合支援法
- 医療法
- 児童福祉法
- 健康保険法 等
「地域包括ケア」が捉えどころのないものに感じるのは、「地域包括ケアシステム法」というような名前を冠した法律が存在しないからというのも理由の一つです。
地域包括ケアシステムのイメージ
地域包括ケアシステムは、上記の目的を果たすために、「介護保険制度だけ」「医療制度だけ」で運用するのではありません。高齢者自身での予防の取り組み、家族や近所の人々、商店の人たちを巻き込み、公的制度がそれをバックアップします。
例えば、社会問題となっている孤独死ですが、地域包括ケアシステムとしては、これを
介護保険法の制度、例えば訪問介護の中で孤独死防止のサービスを創設する
のではなくて、
- 近所の人に定期的にその人の様子を確認してもらう
- 新聞配達員や郵便局職員が声をかけやすい環境にする
といった「インフォーマルな社会資源」をも取り込むことで、孤独死と言う社会的な課題を解決するためのシステムを作ろうとするものです。
一昔前の近所づきあい+公的制度のようなイメージ
地域包括ケアは、要するに、「一昔前の田舎の近所づきあい」+「公的制度」の組み合わせのようなイメージです。
「三河屋のサブちゃん」が勝手にサザエさんの家の勝手口に上がり込んで注文を取る…という例がありますが、これは実際に昭和の時代に見られた光景です。
また、昔の田舎では、近所の子供が勝手に人のうちに上がり込んでいる…なんてこともあったそうです。

このようなつながりがあれば、介護で困っている高齢者にも支援の手が回りやすく、行政サービスにも繋がりやすくなりますよね。
筆者の私見ではありますが、地域包括ケアは、こうしたご近所との有機的なつながりを復活させようとする試みであると思います。
ただ、「人のうちに勝手に上がり込む」といったことは、現在では防犯やプライバシー上問題がありますし、病気や障害のある方の場合、本格的にかかわるには専門的な知識や技術を要することもあります。
そのため、「ご近所づきあい」を仕組みの中に入れ込んで、場合によっては介護保険制度などの公的サービスでバックアップをするというのが地域包括ケアシステムです。
「利用者とその家族が真ん中にいて、なんだかいろいろな人やサービスがごちゃごちゃと描かれている」有名な地域包括ケアシステムの図は、上記のようなことを表しているのです。

地域包括ケアシステムが生まれた背景
ただ「在宅で暮らせる」ためなら、訪問介護などの居宅サービスがありますね。
なのに、なぜ地域包括ケアシステムがなぜ必要なのでしょう?
それは、
といった理由からです。そして、こうした施策を打つ背景には、高齢化と介護の担い手不足、財源不足があります。
そこで、地域に存在するNPOやボランティア、そして近隣の人々の「インフォーマル(非公式)」な力も使って、介護が必要な高齢者でも自宅で継続的に暮らしていけるようにするために地域包括ケアシステムが考えられました。
それ以前も有志でそうした取り組みが実施されている事例もありました。ですがこれを公的な仕組みとして位置づけ、介護保険法などの法改正につながっている点が大きな違いです。
地域包括ケアシステムはどう運用されているか
- 医療なら病院
- 介護なら老人ホーム
…というように、何かの制度は象徴となる拠点があるのでイメージがしやすいですよね。
その点、地域包括ケアシステムは、具体的に思い浮かべるべき拠点がなく、初めて聞くとイメージがわかないですよね。そこで、地域包括ケアのイメージがつかめるように解説します。
中核的機関は地域包括支援センター
地域包括ケアシステムを陣頭指揮を執って行う機関は地域包括支援センターです。地域包括ケアシステムと名前が似ているので要注意です。
介護保険法の地域支援事業の一環で規定されている機関で、中学校区に必ず1つ、というかなり身近なエリアに設置されています。
地域支援事業についてはこちらの記事をご覧ください。

地域包括支援センターでは、以下の三職種が必ず配置されています。
そして、要支援者の介護予防プランを作成したり、要介護者へケアマネジャーの紹介を行ったり、一般の住民からの「介護よろづ相談室」的な役割を担ったりしています。
多職種連携に必要な政策の実行部隊を担ったりすることもあります。
「社会資源」活用と「多職種連携」が重要
地域包括ケアシステムはあらゆるパターンの人々があらゆるパターンの課題を抱えることに対応するため、様々な角度からの政策や介護・医療報酬の点数付けなどが行われています。
その具体的なものの代表例に、地域支援事業が存在します。
ただ、重要なのは社会資源の活用と言われています。例えば、
- 利用者の異常に気付いた配送業者に、そうした場合の連絡先を伝える
- 地域のボランティアの人たちと接点をもち、支援のお願いをする
- 認知症の方がよく訪れる商店の人に、協力をお願いする
こうしたインフォーマルの資源をフル活用することで地域包括ケアシステムは運用されています。
また、地域包括ケアシステムでは、利用者が住み慣れた自宅でいつまでも暮らしていけることを目標に掲げています。そのため、介護サービスなども在宅支援に重きが置かれています。
しかし、在宅生活を効果的に行うためには、多職種連携がより一層大切になってきています。そのため、地域包括支援センターを中心に、多職種連携をこれまで以上に、またインフォーマル資源まで含めた幅広い範囲で行えるよう制度上の整備が行われています。
地域包括ケアシステムの5つの構成要素
地域包括ケアシステムには「5つの構成要素」があります。なんだか難しい言葉ですよね。構成要素というのは、そのシステムを維持するために重要な骨組みみたいなものです。
例えば、「家」の構成要素は「屋根」「柱」「梁」「壁」「扉・窓」「床」というような感じ。
では、地域包括ケアシステムはどうかというと、「介護」、「医療」、「予防」「住まい」「生活支援・福祉サービス」です。これを「わかりやすく(と行政は勝手に思っている)」表した図があの有名な植木鉢です。

厚生労働省曰く
「介護」、「医療」、「予防」という専門的なサービスと、その前提としての「住まい」と「生活支援・福祉サービス」が相互に関係し、連携しながら在宅の生活を支える
と、あります。これだけじゃ抽象的ですよね。そこで、一つずつかみ砕いて説明します。(参考:厚生労働省資料:地域包括ケアシステム構築に向けた制度及びサービスのあり方に関する研究事業報告書)
住まい(植木鉢では「すまいとすまい方」)
▼行政の説明
生活の基盤として必要な住まいが整備され、本人の希望と経済力にかなった住まい方が確保されていることが地域包括ケアシステムの前提。高齢者のプライバシーと尊厳が十分に守られた住環境が必要。
「安心して住める場所がないとそもそも支援ができないでしょ」ということです。
特に単身高齢者で賃貸生活の人の場合、「孤独死」などを警戒して部屋を貸してくれない業者もいます。持ち家があっても、介護が必要となり施設暮らしとなる場合もあります。
そういう場合でも安心して「プライバシーと尊厳が…守られた住環境」が用意できるようにするのが地域包括ケアシステムの大前提ということです。
生活支援・福祉サービス
▼行政の説明
心身の能力の低下、経済的理由、家族関係の変化などでも尊厳ある生活が継続できるよう生活支援を行う。
生活支援には、食事の準備など、サービス化できる支援から、近隣住民の声かけや見守りなどのインフォーマルな支援まで幅広く、担い手も多様。生活困窮者などには、福祉サービスとしての提供も。
植木鉢の葉っぱの部分の「介護…」との違いが分かりづらいですが、生活保護や定期的な住民の声かけといった定型化しやすい福祉サービスだと思えばいいでしょう。
このようなサービスがなく、十分な経済環境や住民との協力体制がなければ、個別の医療・介護サービス等だけでは対応しきれなくなります。
この図で強調されているのは、生活保護や生活困窮者自立支援法などの公的制度だけでなく、住民の協力などのインフォーマルサポートに着目している点です。
介護・医療・予防
▼行政の説明
個々人の抱える課題にあわせて「介護・リハビリテーション」「医療・看護」「保健・予防」が専門職によって提供される(有機的に連携し、一体的に提供)。ケアマネジメントに基づき、必要に応じて生活支援と一体的に提供。
おなじみの医療(医師が行う診療・治療など)と、介護サービスのことです。
本人・家族の選択と心構え
▼行政の説明
単身・高齢者のみ世帯が主流になる中で、在宅生活を選択することの意味を、本人家族が理解し、そのための心構えを持つことが重要
周囲だけがやる気を出して、本人にやる気がなかったらうまくいくものもうまくいきません。何よりも利用者本人や家族が心構えを持つことが必要です。
地域包括ケアシステムの「4つの助」
地域包括ケアシステムが効果的に機能するために、次の「4つの助(自助・互助・共助・公助)」について、基本的な考え方とそれぞれの関係性を理解することが大切です。
「5つの構成要素」と「4つの助」との違い
地域包括ケアシステムの「5つの構成要素」はいわば骨組みですが、「4つの助」はソフトウェアのようなものですね。
例えば、「家」の構成要素は「屋根」や「柱」と言いましたが、その家が末永く建っていられるように必要なメンテナンスを怠らないことがここでいう「助」に似た役割と言えます。
4つの助(自助・互助・共助・公助)
4つの「助」は具体的には以下のようになっています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 自助(個人) | 「自分を助ける」こと。 健康に注意を払って介護予防活動に取り組むなど自発的に自身の生活課題を解決する力のこと。 |
| 互助(近隣) | 家族・友人などと助け合い、それぞれが抱える生活課題をお互いに解決し合う力。 ボランティア・NPO等による支援なども想定されます。 |
| 共助(保険) | 制度化された相互扶助のこと。医療保険、年金、介護保険などの社会保険制度が該当し、被保険者による相互の負担で成り立ちます。 |
| 公助(行政) | 生活保護等の公的支援な社会福祉制度のこと。公による負担(税による負担)で成り立ち、区が実施する高齢者福祉事業のほか、生活困窮に対する生活保護、人権擁護、虐待対策などが該当します。 |
「自分でどうにかする」から家族や友人、社会保険、そして行政の支援へと支援の輪を広げていくイメージです。
4つの助への議論
この4つの助は2021年の菅政権で大きく取りざたされたため、政治的な論争の的にもなり、あらゆる方面から批判と擁護の議論にさらされています。



擁護派は、「自分のことを自分で面倒を見るというのは、自由主義社会として当然のことだ」と主張しています。
一方批判派は、「自助を強調することで、政府が果たす役割から逃げようとしている」と主張しています。
論争はいまだに続いており、どちらが正しいかは個々人の考え方にもよるでしょう。ただ、行政やメディアの言うことを無批判に受け取らず、そういった論争があること自体を認識し、自分なりの意見を持っておくことは医療・福祉職として適切なスタンスだと思います。
地域包括ケアの中での職種別の役割
地域包括ケアシステムでは、自助や共助が重要ではありますが、介護福祉士や看護師などの専門職の役割も非常に重要です。
各専門職には具体的には以下のような役割があります。
| 職種 | 役割 | ポイント |
|---|---|---|
| 介護職・介護福祉士 | 利用者の希望の聴取 在宅継続の支援 | 利用者と最も接点のある専門職なので、暮らしの希望や課題などが見えやすい職種 |
| ケアマネジャー (介護支援専門員) | 多職種連携 インフォーマル支援の活用 | 多職種連携を進める要のポジション |
| 訪問看護師 | 利用者の在宅継続の支援 介護職等への医療面のバックアップ | 介護職だけでは対応できない医療面のバックアップで重要なポジション |
| 病棟看護師 | 患者さんの在宅復帰の支援 適切な他職種への引継ぎ | 地域で暮らしていけるような適切な退院支援が重要 |
| 医師 | 在宅復帰・継続の支援 介護職等への医療面のバックアップ | 病気の回復後も見越した治療・専門職へのアドバイスをする職種 |
| 社会福祉士 | 退院支援 障害や貧困などの幅広い支援 | ソーシャルワーカーとして、ケアマネや介護職だけでは担えない役割がある |
| PT・OT・ST | 在宅復帰等の適切なリハビリの実施 | 「一人で食べられる」「移乗・移動ができる」だけで在宅生活ができる確率は高くなる。そのため、特に嚥下や足腰の弱まった高齢者の機能回復で重要な役割 |
ケアマネを中心に、かかわりの多い介護職や看護職などが支えるという形です。
ですが、基本的には、資格取得時に習う役割と、地域包括ケアシステムの役割は変わりません。
重要なのは、自分の仕事に専念するだけでなくて、その利用者が地域で暮らしていくために何が必要なのかを常に考えること、そして、それらを適えていくために、別職種の質問や要望などに耳を傾け連携する姿勢を持つことです。
地域包括ケアシステムの事例
では、具体的に地域包括ケアシステムはどう実行されているのか、その具体的な事例を知るとより理解が深まりますね。
実は、地域包括ケアシステムは厚生労働省がその取り組みをまとめてくれています。

全国418事例から、継続性・実績データ・多様な主体の参加などを基準に50事例を選定しています。事例集は、人口規模やキーワード別に整理し、立ち上げの経緯、関係者調整、取組規模・利用実績まで示した実務向けのものとなっています。
住民・行政・医療・介護・NPO等の協働により、地域課題の共有、多職種間の情報連携、介護予防、見守り、社会参加の充実などが進み、地域内で切れ目なく支える体制づくりにつながった事例が報告されています。
構築には時間を要し、住民との合意形成、多機関の継続的な調整、担い手の育成・確保、財源や事業の自立的継続、成果データの収集が必要です。地域差が大きく、先進事例をそのまま移植できない点も課題です。
地域包括ケアシステムの課題
地域包括ケアシステムはその理念に反してあらゆる課題も明らかになっています。
多くは、
- 財源不足
- 地域ごとの偏り(介護事業所などの数の偏り)
- 想定より早い高齢化や人口減少の進行による人手不足
などがあげられます。
なお、私見ではありますが、地域包括ケアシステムは、言うほどみんなが一丸となって推し進めているような気配は感じません。
行政や社会福祉学者が前のめりになっているだけで、現場が置いてけぼりのような印象も持ちます。
書籍編集者として、著者となり得る人に話を聞くと「地域包括ケアシステムは非常に重要である」と言わない人はいません。しかし、親せきや友人にいる現場レベルの介護福祉士やケアマネジャーに同じ話を持ち出すと「あぁ、なんか試験の時にやったね」と言う程度です。
これは、地域包括ケアシステムの効果の見えにくさと、現場ニーズとのミスマッチ(人手不足)が要因ではないかと考えています。
地域包括ケアシステムの効果の見えにくさ
地域包括ケアシステムは、「認知症の高齢者が減った」とか「人手不足が解消した」といった目に見える効果が短期的に見えるわけではありません。
そのために、その効果や意義について一つ一つ説明して理解を求めなければなかなか現場の理解が得られにくいのではと思います。
4つの助で「政府が果たす役割から逃げようとしている」という批判があることを紹介しましたが、実際、介護予防支援から訪問・通所介護を外したりと、そのように見える側面がある(実際にはもう少し複雑)ため、「国が金を出したくない方便では(とある現場の方)」と感じてしまう人がいるのも無理からぬことです。
現場ニーズとのミスマッチ(人手不足)
2022年あたりから日本はそれまでに比べると高インフレ・人手不足に見舞われ、社会問題にもなっています。
しかし、介護現場はそれ以前から慢性的な人手不足に陥っていました。(例:有効求人倍率1.15倍に対し、福祉関連職業は2.56倍、令和6年4月現在)
現場は、「賃金を上げ、人手不足を解消してほしい」というのが最大のニーズですが、行政は、最終的にはその路線にはあまり正面から立ち向かわず、地域包括ケアシステムなどと言う理想論にベクトルが向いている…
と、少なくともそう捉える人もいるわけです。
正しいかどうかは各人の判断次第ではありますが、こうした課題が解消されない限り、地域包括ケアシステムはうまく機能しませんので早急な改善が求められているところです。
▼参考文献(PR含)
▼参考文献
- 厚生労働省「社会保障審議会第117回介護保険部会 資料1」
- 厚生労働省WEBサイト「地域包括ケアシステム」
- 板橋区WEBサイト『「自助・互助・共助・公助」からみた地域包括ケアシステム』


