クラウディングアウトとは?簡単に解説
クラウディングアウト(Crowding Out)とは、政府支出がなされると、それによって民間の投資が減ってしまい、かえって国民所得の減少を招く現象を指します。
マクロ経済学でよく議題になる「財政政策が有効か・無効か(または有害か)」という論争や、IS-LM分析でよく登場します。
クラウディングアウトという言葉は、群衆・押し寄せるという意味を持つ「Crowd」が語源で、政府が経済に入ってくることで、民間の投資を押しのけてしまうことから、日本語で「押し退け(押し上げ)効果」と呼ばれます。
クラウディングアウトのしくみ
不景気が起こると、政府は公共事業等を実施して(政府支出を増やして)失業を減らし、国民所得を増加させようとします。しかしその流れで次のようにクラウディングアウトが起こります。
- 政府支出を増やす
- 国民所得が増え資金需要が増える
- 債券売りが起こり、金利が上がる
- 借入負担が増えるので民間投資が減る
- 国民所得が減る
国民所得を増やすために政府支出をしたのに、政府支出によって国民所得が思ったように増えないというジレンマがクラウディングアウトです。
わかりやすさを優先していろいろ省略してしまったので、次からはクラウディングアウトの仕組みについて詳しく説明します。
クラウディングアウトのしくみを詳しく解説
クラウディングアウトのしくみは一見複雑ですが、それほど難しいわけではありません。順を追って説明しましょう。
▼クラウディングアウトのしくみ(再掲)
- 政府支出を増やす
- 国民所得が増え資金需要が増える
- 債券売りが起こり、金利が上がる
- 借入負担が増えるので民間投資が減る
- 国民所得が減る
①②政府支出増で資金需要が増える理由
政府支出が増えることで国民所得が増えます。これは、景気が回復/良くなるということです。
企業にとってみれば、これは「事業投資をするメリット」(事業投資をすると儲けるチャンス)が大きくなることを意味します。
事業投資のためには、工場設備を買ったり、人を雇ったりするための現金が必要ですよね。
そこで、「事業投資のための資金が欲しい」と思う人が増えます。これが「資金需要(貨幣需要)」の増加です。
③-1「債券売り/貨幣買い」が増える
普通に生きているだけだとイメージしづらいですが、企業は大きな額の資産を持つ場合、現金のまま持つことはあまりせず、金利の発生する債券などに換えていることが多いです。
「事業投資のための資金が欲しい(資金需要が増える)」となると、企業は債券を売って現金を確保しようとします。
そのため、資金需要が起こると、「債券売り」が「債券買い」より多くなるのです。
③-2「金利上昇」が起こる理由
債券売り/貨幣買いでなぜ金利が上昇するのでしょう?
それは債券の「売り方」「買い方」を理解するとわかります。
一般の人の「借金」と「債券」は違う
借金というと「100万貸してあげるよ。金利は5%ね」といったやりとりがイメージできます。
そういうイメージをしてしまうと債券市場における金利の決まり方のイメージができなくなってしまうので要注意です。
債券のやりとりは、債券市場という株式市場のようなところで、「債券」という有価証券を株式のように売買することで行われています。
具体的には、債券を持っている人が債券を売りに出し、買いたい人がそこでお金を出して買っています。
債券市場での金利の決まり方
では、そんな市場で金利はどうやって決まるのかを解説します。
例えば、「A年1月1日に100万円を渡す」というのが「債券」です。これを買うと書いてある期日(満期)に100万円の現金がもらえます。この100万円のことを「額面」と言います。
金利とは、「元本に対して何%多くお金をもらえるか」の指標です。ですから、上記額面100万円の債券を…
- 90万円で買えば、金利は約11%
(90万円+利益分10万円なので、10万÷90万≒0.1111) - 95万円で買えば、金利は約5.3%
(5万円÷95万円だから)
になります。
債券の場合、金利は、貸す人/借りる人が指定するのではなくて、このように市場で売買された「購入価格」などを基に計算することで決まるのです※。
※例では単純化していますが、実際はこれに加え利息分(「額面価格の●%を半年ごとに支払う」のようなもの〔この●%を「表面利回り」と言う〕)や償還までの年数も含めてちょっと複雑な計算をして算出しています。
「金利」は、奨学金や住宅ローンなどだと貸し手が契約書や借用書などに「○%」と表示しますが、債券の場合は違います。
債券の場合の金利は、上記のように、証券会社や新聞社などが計算して表示しているだけで、債券そのものに金利が表示されているわけではありません。
債券売り/貨幣買いで金利が上昇する理由
以上の前提をもとに、「債券売り/貨幣買い」が増えると金利が上昇する理由を考えます。
例えば
「額面100万円の債券」を95万円(金利約5.3%)で買った
という人がいたとして、もしも景気が良くなり、「すぐにでも事業投資用の現金が必要だ」となった場合、
多少損をしてでも早く現金化して事業投資に使いたい
と考える人がでてくるかもしれません。
その場合、すぐ現金でもらえるなら買ったときより安い90万円で売り出しても非合理的ではないですよね。
これは、「すぐに現金が欲しくて中古品を多少安い価格でも売ってしまう心理」に似ていますね。
で、
「額面100万円の債券」を90万円で売った場合、金利は約11.1%
です。
つまり、金利は約5.3%→約11%へと上昇します。
「債券売り/貨幣買い」が増えると債券金利が上昇する理由は以上のようなことからなのです。
④⑤民間投資と国民所得が減る理由
民間企業は新しい事業を始める際には数千万や数億と言った巨額の資金が必要になります。
多くの企業はその資金を常日頃預金しているわけではなく、都度銀行から借り入れたり、債券市場から調達したりします。
しかし、上記までのことで全体の金利が上がってしまうと、そのお金を返すときの負担が大きくなります。
その結果、企業は展開しようとしていた事業投資を諦めたり規模を縮小したりするでしょう。
そうなれば、そこで雇用されたり、機械の発注を受けるはずだった下請け企業なども、給与の受け取りや儲ける機会を失います。
このために、国民所得が減少するのです。
IS-LM曲線で見るクラウディングアウト
ここからは、IS-LM曲線も踏まえて説明します。まず、クラウディングアウトは、IS-LM分析で深く検討することができます。
ここで説明することは、上記の「クラウディングアウトのしくみを詳しく解説」で説明したことと同じです。
違いはそれをIS-LM分析を踏まえているという点ですので、言い回しや用語が少し違かったとしても、混乱しないようにしてくださいね。
IS-LM曲線とは?
IS-LM分析(曲線)とは、マクロ経済全体を「金利」「国民所得」という二つを軸にして、それらの関係性を分析する方法です。
財・サービスの取引をする財市場をあらわすIS曲線と、債券と貨幣の取引をする貨幣市場を表すLM曲線で構成されています。

IS-LM曲線についてよくわからないという方は、次の記事もご覧ください。
>IS-LM曲線(分析)とは?意味や分析の目的をわかりやすく解説
IS-LM曲線上のクラウディングアウト
IS-LM上のクラウディングアウトを考えます。
まず財政支出が増えると、IS曲線が右にシフトします。
このとき、金利が一定水準であれば、国民所得は次の図のように、Y1からY2のところまで増えます。

しかし、こうなると、貨幣市場でみればLM曲線上から外れて右下の領域に点があることになります。
つまり、貨幣市場では、貨幣の超過需要(貨幣供給<貨幣が欲しい人)が発生している状況です。

これは
国民所得がその時の金利水準よりも多すぎて、「取引のために貨幣が欲しい」という人が多すぎる
ということ。
こうなると、経済は均衡を保つために、金利が上昇します。つまり、「債券売り/貨幣買い」が起こります。債券が売られれば、債券の購入価格は下がり、上記の記載の通り、金利が上がるわけです。
どのくらい上がるのか?それは、IS曲線がLM曲線に交差する点、つまりAの分だけ引き上がります。

すると、企業は投資に必要な資金の借り入れコストが大きくなるために、投資を減らさざるを得なくなります。
均衡するのは、LM曲線との交点である緑の点です。ここまでクラウディングアウトです。
結果として、国民所得はY2からY3へ、「B」の分だけ減少します。
クラウディングアウトQ&A
最後に、よくあるクラウディングアウトへの質問や誤解についてお答えします・
Q1:クラウディングアウトを覚える意味は?
A:クラウディングアウト覚える意義は「財政政策」の効果があるかないかを論じるためです。
経済学では
「経済には政府の介入がない方がうまくいく」
と考える古典派(新古典派)と、
「経済にはある程度政府が介入したほうがうまくいく」
と考えるケインズ経済学派という二つの考え方があります。
クラウディングアウトはそうした「政府が経済に介入することが良いか悪いか」という論争を考えるための重要なファクターの一つです。
この点について、クラウディングアウトは、確かに国民所得を思ったよりも増やさない効果がありますが、政府支出がない時よりは国民所得を増やすため、これをもって「政府支出は無駄」と論じるのはやや極端です。
しかし、クラウディングアウトを含め、政府支出については
といった批判がある一方で
といった反論もあり、現在でも「どちらが正しいのか」で論争が続いています。
Q2:金利が上昇する理由は「国債の信認が揺らぐ」から?
A:No!ここでの説明はあくまでも貨幣需要のひっ迫のためです。
クラウディングアウトの説明では、よく「政府支出が増加すると国債を大量に発行するせいで国債の信認が揺らぎ、金利が上昇する」という人がいます。
しかし、この説明は不正確です。
IS-LM分析で言う「クラウディングアウト」の金利上昇の原因は、あくまでも「政府支出による国民所得の増加で、貨幣需要が大きく引きあがるから」です。赤字国債への信認は無関係です。
ただ、「貨幣市場」は「債券と貨幣の市場」のことなので、貨幣の超過需要は債券の超過供給のことでもあります。事実、財政支出により債券が多く発行されるわけですから債券供給が増えるのはその通りで、そいのために金利上昇が起こるというのは間違った説明ではないです。
リンゴの供給が増えても、リンゴの需要が減っても、どちらも価格は下がるのと同じです。巨大な経済ではどちらが犯人なのかは判然としないことは多いです。
また実際に、財政への信認が揺らいで金利が上がることはあり得ます。イギリスのトラスショックや日本の2026年の金利上昇などは財政赤字への懸念が原因と言われています。
そうなればこちらも、クラウディングアウトと得られる効果は同じになります。
ですが、理論的には「国民所得の上昇による貨幣需要の増加」が金利上昇の原因とされています。
Q3:クラウディングアウトがあるから政府支出は無効なの?
No!必ずしもそうとは言い切れない
これはQ1でも少し触れましたが、「何とも言い難い」といった感じです。というのも
などが考えられます。ただ、短期と長期といった時間軸で分けるとまた評価は変わりますし、財政赤字を許容するかとか、そもそも効果はあっても資源配分をゆがめるからNoととらえる新古典派のような考え方もあります。
こうなると純粋な経済理論というよりはイデオロギー対立の話にもなってくるため、話はかなり複雑になります。まずはIS-LM曲線上のクラウディングアウトが理解できていればOKでしょう。

本記事では「債券」と「金利」にかなりの紙面を割きましたが、それ以上に詳しく、またわかりやすいのが本書です。金利の決定プロセスはそもそもの債券売買の実務上の決まり方なども理解していないと「??」となります。本書は初心者向けに平易に書かれていますが、証券会社の新入社員でも使えるほど詳しくかかれているためにおすすめです。この記事でも参考にさせていただきました。
【参考文献】
- 服部 孝洋 著『はじめての日本国債』集英社新書、2025
- 吉川 洋『マクロ経済学 第4版(現代経済学入門)』岩波書店、2017
- 福田 慎一、照山 博司『マクロ経済学・入門 第6版(有斐閣アルマ)』有斐閣、2023

